「〜〜っさむぅ・・・」






ある寒い日に




朝起きると部屋の中の空気は冷え切っていて、吐き出す息が白く染まるほどだった。
昨日はとても温かくて、快適に過ごせたと言うのに。
季節の変わり目という時期はどうしてこんなにも人に優しくないんだろう、なんて心中毒づきながら、箪笥の奥からカーディガンを取り出す。
軽く羽織ると、居間の暖炉に火を入れに行った。
温まるまではこの温度に耐えないといけない。
この数十分がどれだけ長い事か。


けほ、こほっ


「あ・・・やば」


あまり丈夫ではない自分の体はあまり気温の変化に柔軟ではなくて。
昨日あれだけ気温が高いと、体がついていかない。

止まらない咳に少々眩暈がする。
もしかしたら熱が出るかも、なんて人事のように思いながら、ふと同居人のことを思い出す。
彼の部屋からは物音一つしない。
あの寒い部屋で布団に包まっているのだろうか。

乾いた咳を繰り返しながら彼の部屋を覗くが、そこに主の姿は無く、整えられたベッドのシーツもさらりと冷たさを含んでいた。

「・・・どこ、行ったんだろ・・・」

いつもなら彼が突然出掛けても帰りを楽しみに待つことができるのに、寒さの所為だろうか。
無性に寂しくなって、冷たいシーツの感触が、もう戻ってこないんじゃないか、とか思わせて。

さらりとシーツを撫ぜると、冷たさが更に指先に染みた。


「・・・どこ行ったんだよ、エドワードのばか」










「たっだいまー!ハイデ〜起きてるかー!」

びくん、と体が跳ねた。
楽しそうな声音で彼が帰ってきた。

「え、エドワード!何処行ってたのさ!」

慌てて姿を確認しに部屋を出ると、がさがさといっぱいの紙袋を漁るエドワードがいた。
紙袋の中身が机に広げられていく。
肉、野菜、調味料に少しの果物と缶詰。あと薬。

全て並べ終えるとエドワードは、よし、と満足げに笑った。

「今日寒くって目ぇ覚めちゃってさ。朝市に間に合いそうだったから行ってきた。昨日給料日でよかったぁ」

嬉々として今日の市場での武勇伝を語るエドワードに、ハイデリヒはただただぽかんと呆けるだけだった。

「どした?おーい?」
「・・・っエドワードのばかー!」
「っうお!なんだいきなり!」

エドワードが顔を覗きこんだのをきっかけに、ハイデリヒは糸が切れたように叫び、抱きついた。
ぐりぐりとエドワードの胸に頭を押しつけて、しきりに、ばか、だのあほ、だの言っている。

「なんだよ!どうしたんだよ!」
「・・・なんか、エドワードが、どっか行っちゃって帰ってこない気がしたんだよ・・・」

押し出された声にエドワードは優しくハイデリヒの頭を撫でた。

「なんだ、寒いから寂しくなっちゃったのか?」
「・・・ばか〜・・・」

優しく笑ってやると、震えた声でハイデリヒは呟いて、エドワードの胸に顔を埋めた。
ハイデリヒの体は冷え切っていて、とりあえずエドワードは彼を既に温まっていた暖炉の前に連れていき、ソファに向き合って座った。

「・・・っけほ、けほ!っく、こほっ」
「ばかはお前だ、こんなに冷えて。また風邪ひくだろ」
「・・・エドワードが帰ってこなかったら、風邪ひいて死んでも構わない」

どうしたというのだろう、彼がこんなに弱気になるなんてあまりないのに。
相変らず彼の手は、離さないと言わんばかりにエドワードの服を握り締め、指先が白くなってしまっている。

「ほら、大丈夫。ここにいるよ。ごめんな、何も言わずに出掛けて」

ハイデリヒの手に自分の手を重ねて、ここにいるよ、と教えてやる。
こうすると彼はとても安心するのを知っているから。

「・・・落ち着いた?」
「・・・うん・・・」

エドワードの胸に埋めていた顔を、ハイデリヒはやっと上げた。
泣きそうなほどに眉を下げて、少し顔が赤い。

「どうしたんだよ、お前。何がそんなに不安?」
「・・・わかんない。・・・寒いからかな、寒いのは嫌い・・・」

寂しくなって、自分一人みたいだから、と呟いてまた俯いてしまった。
エドワードはハイデリヒの指に自分の指を絡ませながら、彼の額にキスを落とす。

「俺は寒いの嫌いじゃないなあ」

「・・・どうして?」

ハイデリヒが不思議そうな顔をエドワードに向けた。
にっこり笑ってエドワードは言う。

「お前のあったかさがよくわかるじゃん」

それに、お前の体温がほしくなるし。
赤くなったハイデリヒの頬にエドワードはキスを何度も落とした。
楽しそうに、始終にこにこしているエドワードに呆れたのか、ハイデリヒはエドワードに体重を預ける。

「なんだよそれ・・・」
「きっとそういう風にできてんだよ、恋人が仲良く寄り添うようにって。季節がさ」

じゃあ、今日の朝ご飯はあったかいスープな、とエドワードは気合十分に言って台所に立った。
そんなエドワードの背を見ながら、暖炉とエドワードの残した温度に身を委ねる。

「・・・エドワードと一緒なら、寒いのも悪くないかもね」




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お題ひとつめ消化。
とりあえず一番近い冬で。
寒いの大嫌いですけど冬は好きです〜

エドワードさんとハイデリヒさんは山の麓在住です。隣の家まで1キロとかいう次元。
こぢんまりした山小屋な感じのおうちに住んでいて、大黒柱はエドワードさん。ハイデリヒは家事しながらエドワードさんの帰りを待ってる、そんなイメージ。
時代も特に考えてないですけど、穏やかな時間が流れていてほしいなあ。

最近エドワードさんの背が伸びています。
175くらいありそう。
そしてハイデが小さい。160くらい・・・


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