「エドワード!出掛けよう!」
「は?」


少しの昼食とほんの少し長い道のり


朝から、ハイデリヒが楽しそうに料理をしていたのをエドワードは知っていた。
いつもよりちょっとだけ豪華な感じのサンドウィッチ。
それを作り上げると、るんるんと歌い出しそうな足取りでバスケットに詰めていく。
ポットに紅茶を入れ終えたかと思うと、隣で新聞を読んでいたエドワードの腕をがっしと掴んで、
「エドワード!出掛けよう!」
と、満面の笑みで言ったのである。
勿論エドワードは唐突に切り出されたその言葉が瞬時に理解できず、素っ頓狂な声を上げてしまったのだが。
「だから、こんなにいい天気なんだもの、家にいるだけじゃもったいないよ!」
アルフォンス・ハイデリヒという人物は、下手すれば自分より頭がきれるくせに、たまにこんな予想不可能な行動を起こしてくれる。
エドワードの中で、ハイデリヒはある意味尊敬に値すべき人物だった。
結局、よくわからないが楽しそうなハイデリヒを邪険にすることも出来ず、エドワードは「ほら早く!」と急かされ家を出たのだった。

二人で他愛のない話をしながら、いつもより長めの道のりをゆく。
街中から郊外へ、郊外の景色はいつも見る家だけの景色とは違っていて、なんだか少し新鮮だ・・・

「・・・なんて思ってる場合じゃねえ!!何処まで行く気だお前はーーー!!!!」
「まだちょっとしか歩いてないじゃないですかー」

ハイデリヒはちょっと、と表現したが、もう家を出てから彼是1時間は経過している。
家はまばら、一応道らしき道は通っているが、最後に人を見たのはいつだろうか。
げんなりしているエドワードを尻目に、ハイデリヒは疲れの色も見せず、相変らず楽しそうにバスケットを振っている。
「ハイデリヒさん・・・貴方確かオフィシャル設定では病弱じゃありませんでしたっけ」
「もう一行目からオフィシャル設定無視ってわかってくださいよ、エドワードさん」
そんな会話も交えながら、道が少し上り坂になってきて更に嫌そうな顔を見せるエドワードを見遣り、ハイデリヒは先を指差した。
「ほら、着いたよエドワード」
「え?」
ハイデリヒが指差した先には、地平線の様に途切れた道・・・空が見えることから向こう側は下り坂なのだろう。

エドワードがそこまで走っていくと、眼下にはドイツの街並みが広がっていた。
赤い煉瓦屋根の家々が小さく見える、まるでミニチュアにした様な景色。
青々とした山が街の向こうに広がり、空は透き通る様な青に良く映える白い雲。
足元には元気な草原が緑を湛えていた。
「これを貴方に見せたかったんだ」
景色に見入るエドワードにそう言って、こっちも晴れてて良かった、と付けたした。
ハイデリヒは未だ何も言えずに立っているエドワードの横に座り、バスケットの中身を広げる。
「お腹すいたでしょ、いっぱい歩いたからいつもよりおいしいよ、きっと!」
全て広げ終えても、エドワードの反応はない。
「・・・・エドワード?」
「・・・ありがと」
ぼそっと呟かれた言葉に、ハイデリヒは微笑んだ。
「僕は何もしてないよ、ただ貴方と一緒にこの景色を見たかったから。それだけ。」
「・・・お前、優しいな」
「エドワードには負けるよ」
泣きそうな顔のエドワードに、そんな言葉を返して、二人で笑いあう。
「・・・はー!腹減った!」
「今日は奮発したんだからね!ちゃんと食べてよ〜?」
「俺がお前の飯残したことあったかよ?」
大振りのサンドウィッチと少しだけ甘い紅茶で昼ご飯。
目の前には綺麗な景色と青い空。

昼食を食べ終わり、エドワードは寝転び、ハイデリヒは膝を抱えてうとうとしながら、日中を過ぎて少し涼しくなってきた風を受けていた。
「すごい、幸せ〜・・・」
エドワードが思わず呟いた言葉に、ハイデリヒがきょとんとしているのに気がついて、上半身を起こす。
少し照れたエドワードがぶっきらぼうに言った。
「・・・なんだよ」
「エドワードの口からそんなこと聞けるなんて思わなかったから・・・」
本当に意外そうに言うハイデリヒに少し眉を顰めると、ハイデリヒはそんなエドワードの気持ちを察したのか、ぽつぽつと話し始めた。
「ほんとはね、なんていうのかな、エドワードが故郷にいる気分になってくれたらなあって、思って・・・ここに連れてきたんだ。エドワードが、いつも故郷の話をしてるの聞いてて、帰りたい気持ちすごくわかったから・・・。・・・ごめんね、こんなことしたって僕のただのエゴだよね・・・。」
話し終えて、困ったように笑ったハイデリヒの頭を軽く小突いて、エドワードは拗ねた様に言う。
「・・・馬鹿。やっぱりお前優しいよ」
「ごめん、余計なことして・・・」
「ああもう、お前ほんとに馬鹿だな!!」
少し声が大きくなったエドワードにびくっと反応してしまったハイデリヒの頭を申し訳なさそうに撫でた。
「・・・俺はな、代わりなんかいらないんだよ」
「・・・ごめんなさい」
「だから違うって、謝んな。俺はこの景色を本当に綺麗だと思った。だからお前にありがとって言ったんだよ。代わりを探してくれたからじゃない。この景色が代わりだからでもない。だけどお前がそうやって俺のために頑張ってくれたのも嬉しいよ、すごく」
ハイデリヒが俯いていた顔を上げると、エドワードが満面の笑みでもう一度、
「ありがとう、ハイデリヒ」
と告げた。

そのままハイデリヒの顔は耳まで真っ赤になり、エドワードは吹き出した。
「何、お前!さっき食べた林檎みたいな顔して!」
「な、なんだよそれ!」
照れたハイデリヒがエドワードを追っかけだし、最初はふざけていた二人が段々本気で鬼ごっこを始めて10分。
とうとうハイデリヒが根を上げ、草の上にごろんと横になった。
「あー!おかしい!」
「最初に始めたのお前だろ?」
横になって息を整えているハイデリヒの側にエドワードが戻ってくる。
エドワードも息をきらせていたが、その顔は何処か楽しそうで。
そんなエドワードを上目に見止め、ハイデリヒが溜息をついた。
「・・・でも、よかった。エドワードが幸せ、って言ってくれて」
呟きにも似たそれを、エドワードは聞き逃さなかった。
先のハイデリヒと同じように、自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
そんな自分をハイデリヒに知られたくなくて、急いで立ちあがると早口で捲し立てた。
「ほら、帰りも1時間近くかかるだろ!?早くしないと日が暮れるぜ!」
「え?あ、ちょっと待ってよエドワード!」
ハイデリヒが持ってきたバスケットを持ち、先に歩き出す。
慌てて追いかけるハイデリヒを振りかえって、

「また来ような!俺とお前の場所!」

と、赤い顔を夕日で隠して叫んだ。
ハイデリヒもそんなエドワードにくすりと笑いを零して。
(すごい、・・・幸せ)
エドワードと同じ言葉を繰り返した。




初エドリヒ小説でした。
青空を見ているだけで幸せ。
そんな幸せがリヒにはぴったりです(と思います)!
ていうかおいしいご飯食べれたら「幸せ〜」ってほわほわしてそうです彼。

ハイデリヒ幸せ計画様に捧げました!

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